犬のお散歩にもルールやマナーがあります。それらを守らなければ、ワンちゃんに大きなストレスを与えたり、最悪の場合法令違反で処罰の対象になってしまうこともあるでしょう。このページでは、飼い主として最低限守らなければならない項目を紹介します。
飼い主のべからず集・お散歩編その1・ノーリード
ドッグランなど許可された場所以外でのノーリードは飼い主のNG行動のトップワンといってもいいでしょう。田舎の方がノーリードにしている方の割合は高いように思えますが、都会でも人の密度が低い場所でノーリードにしている方を見かけることがあります。散歩のスタートから終わりまでずっとノーリードという悪質な人は滅多にいないでしょうが、人が少ない公園や駅前でちょっとだけなら大丈夫と考えている方は意外と多い気がします。公園や河川敷などは人が少なくても公共の場です。ロングリードは場合によってはOKですが、ノーリードはNGです。
また、私の住む神奈川県は条例により公共の場でのノーリードが禁止されています(注3)。さらに川崎市の条例(川崎市動物の愛護及び管理に関する条例第5条第2項第1号)も明確にノーリードを禁止しており、ノーリードにすると市と県両方の条例に違反することになります。(注4)
ノーリードにすることのリスク
リードの装着はワンちゃんを守ることにつながります。何かに驚いて車道に飛び出してしまうと交通事故の危険があります。犬たちに交通の危険度を判定する能力はありません。ワンちゃんを危険から守るには人間が危険を正確に認識し、行動を制限するのが唯一の方法です。
また、バイクや自転車などは飛び出してきた犬を避けようとすると転倒してしまうこともあります。このとき犬がノーリードであれば飼い主の責任は免れません。ライダーが負傷した場合は飼い主がその治療費を負担することになるでしょう。
以前、犬の咆哮に驚いて転倒、負傷した被害者に数百万の支払いが命じられたことがありました(注1)。このケースにおいて、犬はリードでつながれており、声を出しただけでしたが、400万を超える支払い命令が出ています(注1)。もしノーリードだったらさらに高額になっていたでしょう。
基本的に日本の法律では「飼い主は『相当の注意』を払う義務を負う」としながらも、「通常払うべき程度の注意義務を意味し、異常な事態に対処しうるべき程度の注意義務まで課すものではない」との但し書きがあります。この「通常」と「異常」という言葉の解釈は難しく、裁判官によって多少の差が出ることがあります。裁判官が犬嫌いな人であれば、判決は愛犬家にとってより厳しいものとなることを覚悟しておかなければなりません。
日本に住む人の4人に1人は動物が嫌いというデータがあります。また、アレルギーなどの身体的理由で犬に近づけない人もいます。当然、犬嫌いや犬が苦手の人も、安心して道路を通行する権利はあるのですから、ノーリードはNGです。
よく「トレーニングしてあるから大丈夫」という方もいますが、生き物に100%はあり得ません。どんなにトレーニングされた犬であっても、交通事故の音や工事現場の大きな音、突然の地震による落下物などに驚いて、逃げてしまうこともあります。安全確保はリードが基本でトレーニングはそれを補助するもの、または何かの理由でリードが外れてしまった場合の保険とお考えください。
飼い主のべからず集・お散歩編その2・排泄物の放置(マーキング含む)
ワンちゃんのおトイレは自宅で済ませるのが基本ですが、外での排泄をゼロにするのは困難です。ウンチを持ち帰らないのは論外ですが、オシッコもトイレシーツに吸着させ持ち帰るように心がけましょう。最近は外で排泄してしまったときに流せるよう、ペットボトルに水を入れてお散歩に持って行く方は多くなっています。この点はとても良いことなのですが、水で流すだけでは十分な処理とはいえないのです。
排泄で問題になるのは衛生面、匂い、そして構築物の腐食です。匂いは不快感の元ですし、尿成分が原因で道路標識や信号機が損壊したケースもあります。衛生面が問題になるのはいうまでもありません。ペットボトルの水で流す程度では広がるだけで、尿成分のほとんどは路面に残ったままです。重要なのは尿の成分を除去すること。水で流す場合には一度に最低でも5~6リットルの水で流す必要があるでしょう。しかし、お散歩に行くのに5~6キロのお荷物を背負っていくのは現実的ではありません。
オススメはトイレシーツでオシッコを拭き取り、取り切れなかった分を水で少し薄めてもう一度拭き取る、最後に多めの水で流せば大半の尿成分は除去できます。犬嫌いの人にとっては、これでもまだ不十分かもしれませんが、少なくとも構築物の腐食や匂いの問題はかなり低減できるのではないでしょうか。少なくとも多少の水をかけるだけでは、尿成分が道路上にあることに変わりはなく、飼い主の自己満足にすぎないということは認識しておくべきです。
また、マーキングは排泄とは異なる行動です。排泄と違い、ごく少量の尿を何回も違う場所にかける行動です。これはやっかいで、少量であるが故に水をかけるだけで十分だと思ってしまいがちです。しかしたとえ少量であってもしっかり拭き取ることを心がけてください。尿の匂いは、縄張りのアピールです。一度匂いが残ると、他の犬もその場所でマーキングをするようになり、結果的に複数の犬の尿がその場所に溜まってしまいます。犬たちは嗅覚が優れているので、拭き取った程度で匂いをごまかすことは難しいのですが、しっかり拭き取るのと拭き取らないのでは全く違います。
マーキングは回数が多いので、そのたびに処理するのは飼い主の負担が大きすぎます。従ってマーキングした後の処理よりも、いかにマーキングをさせないかを考えましょう。 散歩中は匂い嗅ぎをさせない、未去勢であれば去勢を考える、マナーベルト(オムツのようなもの)を使用する、等が効果的です。
飼い主のべからず集・お散歩編その3・ロング(伸縮)リード使用
ロングリードや伸縮リードは正しく使えば便利です。他の人がいない広めの場所であれば、ロングリードや伸縮リードで少し自由にさせるのもアリかと思います。特に伸縮リードは収納が楽ですので、普通のロングリードよりも手軽に扱えます。しかし、毎日のお散歩で伸縮リードを使用するのは疑いの余地なくNGです。
お散歩するときに重要なのは、リードの長さ。リードが無駄に長いと、周囲に恐怖心を与えるだけでなく、マーキングの助長・引っ張りの助長・事故のリスク増など、いらない悩みが無駄に増えるだけです。散歩におけるロングリード(伸縮タイプ含む)はノーリードと同等であると認識してください。お散歩時に伸縮リードを使用してお困りごとが増えても、得するのは依頼人が増えるであろうトレーナーだけです。
飼い主のべからず集・お散歩編その4・無断で他の犬に自分の犬を近づける
これをやる人はかなり多いと思いますが、他の犬とあいさつさせたいときは必ず飼い主さんに許可を取りましょう。犬たちにも個性があり、全ての犬が他の犬と仲良くできるわけではありません。もちろん相性もあります。いきなり自分の犬近づけて喧嘩になったら、許可を得ずに近づけた人の責任です。
自分の犬が嫌がっているのに無理矢理他の犬と挨拶させようとする方もいらっしゃいますが、トラブルの元なので一切止めましょう。どんな犬とも仲良く遊んで欲しいというのは、飼い主のエゴです。
ちなみに私の犬は、大型犬や活発な性格の犬が苦手です。活発そうな犬や大型犬とすれ違うときは意識がその犬に向かないように、対処しています。ごくたまに、近づいてくる人がいますが、そのような場合は無視して逃げるのが一番です。相手は不快に思うかもしれませんが、トラブルなど起きて裁判沙汰になるよりは遙かにマシでしょう。
飼い主のべからず集・お散歩編その5・自転車散歩
ダメダメ。完全にアウトです。ここまでくると正気を疑うレベル。道路交通法違反で捕まりますよ(注2)。本人はもちろんのこと、周囲の人も危険にさらす超迷惑行為です。万が一事故を惹起させた場合には、その補償額は相当高額なものとなるでしょう。
犬のしつけより、交通安全のお勉強をしましょう。
飼い主のべからず集・お散歩編その6・そもそもお散歩に行かない
ここまで読んで、「こんなに面倒なら散歩なんていかない!」と思った方もいるでしょう。しかし、お散歩は社会化トレーニングの基本。お散歩に行かないのは、愛犬を問題児にさせることと同じです。ただし、気象条件によっては無理にいく必要はありませんし、炎天下などは歩かせてはいけません。週に5日くらい散歩に行けていれば十分です。ルールやマナーを守り、毎日のお散歩で愛犬の社会化トレーニングをしましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。犬の散歩も守らなければならないことが多く、ここで紹介したものは一部に過ぎません。100%守ることが難しくても、最低限このページで紹介したものは実行できるといいでしょう。ポイントは「犬嫌いの人から見て自分の行動はどう見えるか」です。愛犬家の社会的立場を守るためにも、犬好きの人ばかりではないという現実を意識するようにお願いいたします。
参考文献等
浅野明子(2016)『ペット判例集』大成出版社
渋谷寛・杉村亜紀子(2018)『ペットの判例ガイドブック ―事件・事故、取引等のトラブルから刑事事件まで―』 民事法研究会
注1) 浅野明子(2016)『ペット判例集』大成出版社 P35
注2) 中村友彦(OSAKAベーシック法律事務所) 「自転車を運転しながら犬を散歩|弁護士による大阪交通事故相談ネット (o-basic-kotsujiko.net)
<https://www.o-basic-kotsujiko.net/column/post_174.html> (2021年7月29日閲覧)
注3) 鎌倉保健福祉事務所(神奈川県ホームページ内)「犬に関する相談」<https://www.pref.kanagawa.jp/docs/d3x/seikatsu-kankyo/inunosoudann.html> (2021年8月14日閲覧 2023年3月現在リンク切れ)
注4)川崎市ホームページ「公園で犬などのペットを放していいですか|よくある質問(FAQ)」
<https://www.city.kawasaki.jp/templates/faq/530/0000066884.html> (2021年8月14日閲覧)