トレーニングの基本方針

犬のしつけには環境設定が重要であることは、他のページでお話ししました。
このページでは、犬に正しい行動を教え、間違った行動を辞めさせる方法を記述します。基本的には褒めて良い行動を伸ばしましょう。罰を使うことは難易度が非常に高く副作用が多いので、なるべく避けるべきです。犬にストレスを与えるだけで、行動は全く改善出来なかったということも多々あります。

また、ここからは前述の環境設定がすべて出来ていることを前提でお話しします。

褒めて伸ばす


「褒める」といっても、犬たちは言葉の意味を理解できません。とくに最初のうちは「いい子だね」「よく出来たね」といっても犬には伝わりませんので、ご褒美を使いましょう。後述する褒め言葉の教え方で、ワンちゃんが褒め言葉を覚えたら、徐々にご褒美を減らすことが出来ます。

ご褒美は「犬が喜ぶもの」であれば何でも構いません。一般的には、フードや遊びがご褒美として使われます。遊びは、場所によっては危険な場合(路上でのボール遊びなど)もありますし、上級者向けの方法なので、基本はフードを使うようにしましょう。


フードであれば、お散歩中でも安全に使うことが出来ます。

フード選び

ご褒美として使うフードは普段食べているドッグフードでも構いませんが、出来ればそれ以外に2~3種類用意しておくことをお勧めします。普段食べているものは、いつでも食べられるのであまり魅力を感じない(飽きている)ことがあります。人間でも、滅多に食べられないものや、滅多に見られないものの方が魅力を感じると思います。満開の桜や、秋の紅葉等ですね。もし、1年中見られるのであれば、誰もお花見しないでしょう。

ご褒美の量

一回のご褒美の量は、小さめにしましょう。 トイプードルサイズのワンちゃんであれば、一回のご褒美は直径5mm位で十分です。ラブラドールレトリーバーくらいの大きさの子でも、直径1cm程度で大丈夫です。大きさが倍になったとしてもワンちゃんの満足度はそれほど変わりません。大きさを倍にするくらいなら、褒める回数を増やしてあげた方が満足度もトレーニング効果も上がります。


ご褒美の大きさの目安。左から小型犬用(体重5~6キロ)、中型犬用(体重10~12キロ)、大型犬用(体重20キロ超え)

ご褒美を与えるタイミング

ご褒美をあげるタイミングは、犬が正しい行動をとった直後です。具体的にいうと3秒以内が目安です。時間が経過すればするほど、ワンちゃんは 行動とご褒美を結びつけることが出来なくなってしまいます。つまり、「どうしてご褒美をもらえたのか」が理解できなくなってしまうわけです。人間であれば、言葉の意味が理解できるので、「昨日はよく頑張ったね」と言えば、24時間たっていても褒め言葉と昨日の行動を結びつけることが出来ます。しかし、言葉の分からないワンちゃんたちは、時間的に近いものと結びつけるしかないのです。ですので、良い行動をしたらすぐにご褒美をあげるようにしましょう。60秒を過ぎると効果はゼロですので注意してください。

ワンちゃんの行動後の経過時間と、ご褒美や罰の効果の減少を示したグラフ
あくまでもイメージですが、時間の経過とご褒美が行動に与える効果をグラフにしました。60秒以内ならいつでも良いわけではなく、最初の10秒で効果は半分以下になるといわれています。あくまでも60秒というのは、効果が完全にゼロになる時間ですので、基本は行動直後、遅くても3秒以内に褒めるようにしましょう。


褒め言葉を決める

先述の通り、犬たちは言葉の意味を理解できませんので、基本的には言葉で褒めても理解できません。しかし、ニュアンスや雰囲気を伝えることは出来ます。ワンちゃんが褒め言葉を学習してくれると、ご褒美をあげる回数を大幅に減らすことが出来ます。また、ワンちゃんが少し離れた場所にいるときでも、言葉をご褒美にすることが出来るので、トレーニングの幅が広がります。
しっかり意識して教えないと、なかなか学習してくれませんので、褒め言葉を教えるときは以下のことを守ってください。

  • 褒め言葉は1つだけにする
  • 短い言葉にする

褒め言葉は1つだけにする

褒め言葉は一つだけにして家族内で共通のものを使ってください。「いいこ」「good」「おりこう」「えらいね」など、いろいろな言葉を使うと、ワンちゃんはたくさんの言葉を覚えなくてはならず、学習が遅くなります。

短い言葉にする

「おりこうさんだね」「よくできたね」などの言葉を褒め言葉にすることは避けましょう。ドッグトレーニングでは、テンポ良く連続でワンちゃんを褒めることがよくあります。長いと、ワンちゃんも混乱しますし、褒める方も連続で褒めようとすると、ろれつが回らなかったり舌を噛みそうになります。褒め言葉は短く、言いやすい言葉にしましょう。

お勧めは「いいこ」「おりこう」「good」「えらい」等です。長くても平仮名4文字以内にしてください。

褒め言葉の教え方

犬たちは言葉の意味が理解できません。ですので言葉をご褒美にするためには、褒め言葉を聞いたときにワンちゃんが嬉しい気持ちにさせる必要があります。ワンちゃんが褒め言葉を聞いたときに、フードをもらったのと同じ気持ちになれば、言葉がご褒美として使えるようになるのです。



では、どうやったら褒め言葉を聞いたときにフードをもらったのと同じ気持ちにさせることが出来るのでしょうか。

褒め言葉をかけて、すぐに(3秒、出来れば1秒以内)ご褒美をあげてください。これを何度も繰り返すことによって、「褒め言葉=フードがもらえる合図」となりますので、言葉がご褒美として使えるようになるのです。 お詳しい方ならお分かりかもしれませんが、これは「パブロフの犬」と同じ原理です。パブロフの犬とは「ベルを鳴らしてからご飯をあげる事を繰り返した結果、ベルの音を聞くだけで唾液を出すようになった」というお話。一言で言えば「条件反射」です。褒め言葉の直後に毎回フードをあげることで、褒め言葉を聞いたときに条件反射的にフードをもらっているときと同じ気持ちになるのです。

必ず褒め言葉を先にいう

褒め言葉を教えるときには、褒め言葉をかけてからフードをあげましょう。順序が逆になると、全く効果がありません。また、言葉と同時にフードを与えるのも効果が著しく劣るので、気をつけてください。

練習を続けていると、だんだん作業が雑になり「いつの間にか言葉と同時にフードをあげていた」ということが多々あります。順序は大切ですので、同時になったり順序が逆になっていないか意識しながらトレーニングしてください。

朝夕10回ずつ、1日20回を1週間くらいやれば、犬たちは褒め言葉を覚えてくれます。

叱ることも必要

褒めてしつけましょうというお話をすると、「叱ってはいけない」と解釈する方がいらっしゃいますが、そうではありません。叱ることも必要です。褒めるのは何か正しい行動を教えるときです。やってはいけないことを止めさせるには叱らなければならないこともあります。

ただし、体罰(叩いたり、蹴ったり、押さえつるなどの暴力行為)は、絶対に避けましょう。暴力的なやり方は、犬が無気力になったり、犬たちが人間を信じなくなる危険が高いのでNGです。動物愛護の問題もありますし、最悪の場合犬が人間に対して攻撃的になることもあり、最終的には飼い主の方や散歩中にすれ違う人が危険にさらされます。

犬を叱るときは、音や匂いの刺激を使います。これはタイミングや刺激の強さがとても重要で、非常に難易度が高いので、必ずトレーナーに指導を受けましょう

終わりに

ここまでトレーニングの基本方針をお話ししました。
ご褒美を使わず、無理矢理行動させようとしても犬たちは困惑してしまいます。ご褒美なしで飼い主の方をじっと見て指示を聞けている子も、最初から出来たわけではありません。トレーニングは焦らず今やるべき課題を一つずつこなしていくことが重要です。
褒め言葉を教えることは、トレーニングの基本中の基本ですので必ずやっておきましょう。


参考文献
太田光明・大谷伸代 編著『ドッグトレーニング パーフェクトマニュアル』チクサン出版社,2011.
杉山尚子他『行動分析学入門』産業図書, 1998.
杉山尚子『行動分析学入門—人の行動の思いがけない理由』集英社新書,2005.

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