大谷翔平選手が抱っこしている動画がテレビで放送されたことで一躍有名になった希少犬種「コーイケルホンディエ」。今後飼いたいという人が増えることが予想されます。この記事をご覧の方も
- 大谷選手が抱っこしていたワンちゃんを飼ってみたい
- 大谷選手が抱っこしていたワンちゃんについて知りたい
- コーイケルホンディエを飼ってみたいけど、自分に飼えるかどうか不安
- 初めてコーイケルホンディエという犬種を知った
という方ではないでしょうか?
様々な資料に「穏やかな性格」「飼いやすい」「ゴールデンレトリーバーのような性格」などの紹介があります。しかし、それらはコーイケルホンディエの良い面だけを誇張した表現であり、現実とはかけ離れていると言わざるを得ません。
実際のコーイケルホンディエは「ビビリ」や「神経質」な性格の個体が多く、残念ながら気軽に飼える犬種ではありません。神経質な性格故、生半可な覚悟で飼うと確実に痛い目に遭います。
この記事ではドッグトレーナーであり、コーイケルホンディエの飼い主でもある筆者が、この犬種について解説します。
それでは早速解説に入っていきましょう!
コーイケルホンディエの別名称とその由来
コーイケルホンディエは、「Dutch Decoy Spaniel(ダッチ・ディーコイ・スパニエル)」という名称でも知られています。
- Dutch=オランダの
- Decoy=おとり
- Spaniel=鳥猟犬
ですので、「オランダのおとり鳥猟犬」という意味です。コイケルはもともと鴨猟に使われていた犬種です。ふさふさの尻尾で鴨をおびき寄せ、近寄ってきた鴨たちを一網打尽にする猟が行われていました。「Kooikerhondje」という名称にもオランダ語で「おとり」を意味する単語が含まれています。16世紀頃から鴨猟で活躍したコイケルたちですが、鉄砲での猟に移行するにつれ、出番はなくなっていきました。
コーイケルホンディエの性格的特性
次に、コーイケルホンディエの犬種特性について解説します。犬種特性は色々あるのですが、しつけや飼いやすさに強く影響する性格的な特性を見てみましょう。
ハイパーアクティブ
とにかくパワーが有り余ってます。運動欲求はかなり強く、散歩程度の運動では全く欲求を満たせません。定期的にドッグランなどで、ボール遊びをしてストレス発散する必要があります。また、その運動能力の高さから、アジリティやディスク競技をされている飼い主さんも多いです。
写真は私の犬です。
超神経質
とにかく神経質、怖がりでいろいろなものや人に対して警戒します。私のコーイケルホンディエも今でこそ、そこまで警戒はしなくなりましたが(それでも警戒心はかなり強いほう)、2歳くらいまでは散歩中に様々なものに警戒していました。具体的には唸ったり、吠えたり、体が硬直したりといった行動が見られました。
警戒対象は様々です。
- 風になびくコンビニの幟(のぼり)
- バイクや自転車のカバー
- 帽子をかぶった人
- 杖をついている人
- 声を上げて走りまわる子供
- 他の犬(特に大型犬)
- 車のセルモーター音
- 排気音の大きい車輌
- 工事のヘルメットをかぶった人
- 制服警察官
- 誘導棒を持った交通誘導員
- 踏切の遮断機
- 蒸発現象でシルエットしか見えない人
- 肩車した親子など。
屋外だけでなく、自宅の中にも警戒するものはあります。
- 食器が重なる音
- インターホン
- 郵便配達員
- 普段と違う装いの飼い主
- 鉛筆削りの音
- ペットボトルが潰れる音
- 電動カミソリの音など
ここに挙げた例はほんの一部です。そのたびに、馴致をしなくてはなりません。
コーイケルホンディエを飼う上で避けて通れないしつけ
とにかく神経質な性格なので、いろいろなものに対して警戒します。そうならないよう、お散歩デビュー前からキャリーカートなどに乗せて外に連れて行く必要があります。ワクチンが終了していなくても地面を歩かせなければ問題ありません。賑やかな駅前などに連れて行き、街の喧騒になれさせましょう。
しかしそれだけでは、不十分です。年齢が上がるにつれて、苦手なものや怖がるものが増えてくることでしょう。怖がるものになれさせるトレーニングを「馴致」といいますが、一般の飼い主さんレベルで上手に出来る人はかなり少ないです。
理由はたった一つで、超人的な忍耐力が要求されるからです。まして今までドッグスクールなどで、しつけの練習をしたことがない方にはまず無理です。自分で馴致トレーニングをしようとしても99%失敗します。コーイケルホンディエを飼う上で、一番問題になるのが、この神経質な性格です。
そして前述のとおり、ハイパーアクティブなので多くの運動を必要とします。「運動?散歩増やせばいいんでしょ?」と思った方には100%コーイケルホンディエをお勧めできません。
散歩程度の運動で満足できるほどコーイケルホンディエの運動欲求は半端なものではありません。彼らの運動欲求を満たすには、毎週ドッグランで飼い主とボール遊びをする、ディスク競技をやる、アジリティ競技をやるなどが必要です。それに加えて、自宅でも毎日張りっこや軽いボール遊びをやる必要があります。
ボール遊びをするコーイケルホンディエ↓
具体的な吠え対策はこちらを参照↓
コーイケルホンディエを飼うのに向いている方
これから、コーイケルホンディエを飼ってみたいという方のために、コイケルをお勧めできる人がどんな人なのか解説します。当てはまらないなと思ったら、コイケルは諦めてくださいね。
しつけ・ハンドリングの上級者
コーイケルホンディエを飼うのに向いている方は、褒めるしつけ及びハンドリング上級者です。上級者(※)であれば、やり方はなんとなく分かるでしょうし、壁にぶつかったときも相談できるトレーナーとの接点もあることでしょう。そして、「手がかかるワンちゃんの方がしつけのやりがいがある!」という、しつけにとても前向きな方。そのような方であれば、コーイケルホンディエを飼うことをお勧めできます。
※上級者の定義は後述
犬のために毎日しっかり時間がとれる方
コイケルは陽気な性格で遊ぶのが大好き。特に飼い主さんと遊ぶのが大好きな犬種です。したがって、一人で放っておかれる時間が長いとストレスを感じやすくなります。毎日引っ張りっこやボール遊び(家の中のボール遊びは転がす程度でOK)をしてあげる必要があるでしょう。時間は10分程度を1日に2~3回が目安です。
それ以外にも定期的にドッグランでボール遊びしたり、走り回れる競技(ディスク・アジリティ)などに参加して、運動欲求をしっかり満たす必要があります。また、仔犬の頃は上記に加えて社会化トレーニングも必要です。迎えてから1年くらいは毎日1時間ほど社会化トレーニングをすることになるでしょう。
ドッグスポーツを楽しみたい方
コーイケルホンディエはとても活発な性格ですので、ドッグスポーツに向いている犬種です。特にアジリティをやっている飼い主さんは多いです。実際アジリティ大会に行くと、コイケルを数頭見かけます。町中を歩いていても殆ど見かけないコイケルも、アジリティ会場だけはコイケル率が高いです。
アジリティのようなドッグスポーツを長く楽しみたいという方にはおすすめの犬種です。
コーイケルホンディエを飼うのを控えた方が良い方
では逆にコーイケルホンディエの飼育に向いていない人はどのような人なのかを解説します。
犬のしつけ(褒めるしつけ)・ハンドリング初心者
犬のしつけ・ハンドリング初心者の方は控えた方が賢明です。もちろん初心者の方でも、「ワンコは手がかかった方が、しつけのやりがいがある!睡眠不足になってでも手がかかるワンコがほしい!」という方は、飼ってもいいと思います。ただし、犬のしつけは未経験者が考えるほど簡単ではありません。覚悟を決めてください。
犬のために時間をとれない方
繰り返しになりますが、コーイケルホンディエは運動量が半端ではありません。毎日の遊び(引っ張りっこ・ボール遊び)、散歩(社会化トレーニング)などに時間を割けない人は、コイケルを飼うべきではありません。特に仔犬の頃は1日の大半を犬のしつけに費やすことになります。散歩、社会化、遊び、基本訓練など毎日の課題は山積みです。当然ですが一人暮らしのサラリーマンなどにコイケル飼育は不可能です。夫婦共働きで1日の大半留守にしてしまう場合もコイケル飼育は控えた方が賢明でしょう。
超人的忍耐力がない方
前述の通り苦手なものになれさせる際、超人的な忍耐力が必須です。ワンちゃんが吠えたからといって、すぐにイラッとしたり、ワンちゃんのマズルをつかんで叱ってしまうようでは論外。神経質なコーイケルホンディエは特に飼い主の忍耐力が必須といえるでしょう。
他の犬種でも同じですが、犬を飼うときは欲しい犬種のことをしっかり調べましょう。私が人生で最初にゴールデンレトリーバーを飼ったときは、1年勉強してからブリーダーさんを探しました。生き物を飼うということは、それくらい大変なことなのです。まして、「大谷選手と同じ犬種を飼いたい」などという安易な動機で飼うことは絶対に止めて頂きたいと思います。
初心者・上級者の定義について
ここでいう初心者、上級者という表現は、犬の飼育歴とは全く関係ありません。
よく、「自分は5頭犬を飼った経験があるから上級者だ」と勘違いされている方がいますが、一般飼い主の飼育程度では経験のうちに入りません。しつけやハンドリング技術の上達にはいくつかのポイントがあり、それらを押さえなければ上達は不可能です。
そして、上達のポイントを押さえるためには正しい知識が不可欠。効率よく上達するためには、まず座学で正しい知識を身につける必要があります。正しい知識を持たない初心者が何頭犬を飼っても、それは「正しい経験」とは言えず、独りよがりなハンドリングのクセが付くだけです。
ハンドリング技術向上には、正しい知識と適切な練習の場が不可欠です。長く飼うだけでは、犬に慣れることはあってもハンドリング技術が向上することは絶対にありません。スクールなどでハンドリング練習をしたことがない方は、たとえ犬の飼育歴が30年であったとしても、技術は初心者です。
※学術的根拠に乏しい座学は、間違いがあったときに気づきにくいため避けた方が賢明です。
それでもコーイケルホンディエを飼いたいならブリーダー
相当な苦労を覚悟してでもコイケルを飼いたいという方もいらっしゃることでしょう。犬とのアクティビティを楽しみたい方にはお勧めできる犬種です。コーイケルホンディエはペットショップで見たことはありません。ブリーダーさんに連絡してください。「コーイケルホンディエ」「ブリーダー」で検索すれば、すぐに見つかりますよ。
ただし、希少犬種故、日本国内にブリーダーは数件しかありません。場合によっては、予約してから迎えるまで数年待ちになることもあるでしょう。待っている間にしっかり犬のことを勉強してくださいね!
今後は、コイケルの需要増に目を付けた悪徳ブリーダーが現れる可能性もゼロではありません。コーイケルホンディエは遺伝的疾患を抱えた個体もいます。ロクに知識を持たない素人が安易にブリーディングしようものなら確実に不幸な子が増えるでしょう。
きちんとしたブリーダーは交配させる前に両親の遺伝子検査を実施し、問題がないことを確認しています。どんなブリーダーなのか、しっかり調べてから犬舎の見学に行ってください。
さらにコーイケルホンディエは価格もそれなりに高いです。遺伝子検査などで費用がかかりますし、繁殖犬にも運動をさせる必要があるので、広い土地も必要です。価格に影響するのは当然といえます。ブリーダーさんにもよりますが、2023年11月現在、価格は50万~80万程度でしょう。
まとめ
コーイケルホンディエはしつけがかなり難しい犬種であることがお分かり頂けたかと思います。神経質な性格故、気軽に飼える犬種ではありません。
犬種図鑑などで、「賢くて飼いやすい」と書かれたものもありますが、それは飼い主がしつけの上級者である場合に限ります。実際、トレーナーである私にとっては、しつけのやりがいがあります。活発でいろいろな活動を一緒にできるので、飼っていてとても楽しい(飼いやすい)です。なにより次飼うときもコイケルが欲しいと思うほど、私はこの子が大好きです。
「飼いやすい=手間がかからない」ではありません。「飼いやすい」とは具体的にどういうことなのか今一度よく考えてから、飼うかどうか決めてください。
参考意見・文献、オススメ記事など
コイケル飼い主皆様のご意見など
太田光明 大谷伸代編著(2011)『ドッグトレーニング パーフェクトマニュアル』チクサン出版社
President Online『「大谷翔平の犬」が悪徳業者のターゲットに…どれだけ可愛くても「ミックス犬」を買うべきではない理由』
(私とは違った視点で、犬を飼うことの難しさを解説した記事です。)