散歩中にすれ違う犬と挨拶をさせたいとお考えの飼い主さん、多いのではないでしょうか?しかし、犬にも相性があります。おおらかな犬にも相性の悪い相手はいますし、そもそも他の犬が苦手という犬もいます。散歩中に犬同士の挨拶って本当に必要でしょうか?
結論から言ってしまえば、全く必要ありません。にもかかわらず、やたら挨拶させたがる人は一定数います。このページでは、犬同士の挨拶が不要である理由、挨拶をさせたくない時の対処方法、どうしても挨拶させたい場合のマナーについて解説します。
犬同士のあいさつは不要です
散歩中に犬同士を挨拶させる必要は全くありません。特に他のワンちゃんが苦手で、挨拶を嫌がるワンちゃんに無理矢理あいさつさせるのは百害あって一利無しです。重要なのは、遊びたがって過剰に興奮したり、過剰に怖がったりしないこと。お互い気にせず、すれ違うことができれば理想です。
犬同士の挨拶が不要である理由
人間の場合は人同士のコミュニケーションが大切です。人同士のコミュニケーションは人間が生きていくために必要不可欠なものだからです。
では犬の場合はどうでしょうか? 犬が生きていくために、犬同士のコミュニケーションは必須ではありません。ペットである犬は人に依存することが前提の生き物ですので、犬同士より人とのコミュニケーションが大切なのです。過剰に怖がることがなければ、挨拶などできなくても問題ありません。
それよりも、人間と仲良く出来ない方が問題です。飼い主はもちろん、それ以外の人にも慣れておかないと、病院で診察を受けたり、預けたりすることも困難になります。特に、獣医師に対して警戒する犬は、正しく診察が出来ず病気の発見が遅れる危険すらあります。犬より人に慣れさせましょう。
仮に「ワンちゃんが他の犬を極端に怖がるので馴れさせたい」という場合は、「系統的脱感作」という手法を用いて馴れさせます。嫌がるワンちゃんに挨拶を強要すると、馴れるどころか100%悪化しますのでご注意ください。
しつこく犬に挨拶をさせたがる迷惑行為への対処法2選
犬同士の挨拶は不要ですが、絶対にやってはいけない訳ではありません。犬同士の相性が合えば、挨拶させてもOKです。
ところが、飼い主さんの中には相手の犬の都合を考えない人もいます。犬のことをよく分かっていない人もいるでしょう。
相手の犬が明らかに警戒していたり、離れようとしているにもかかわらずお構いなしに自分の犬を近づけるのは、はっきり言って迷惑。そんな迷惑行為の対処法としては次の2つがオススメです。
対処法① 「近づけないでください」とお願いする
まずは相手に、自分のワンちゃんは犬が苦手であると伝えましょう。2割弱の方は、これで分かってくれます。逆に言うと、8割以上の人にはこの方法では効果がないということなのですが……。これは、犬という生き物への理解の低さが原因です。
効果のない場合が多い対処法ですが、これで分かってもらえるのなら、それが一番いいです。まずはこの方法を試しましょう。
対処法② 相手がしつこい場合は逃げるが勝ち
「近づけないでください」とお願いしても、「うちの子は大人しいから平気ですよ」と近づいてくるしつこい人もいます。迷惑極まりない行為ですが、こういう人は一定数いるので諦めるしかありません。
預かり業務などでお客様のワンちゃんとお散歩に行く場合、ワンちゃんの性格によっては挨拶させられないことも多々あります。そんなとき、上記の発言をされると「いや、そっちは平気でもこっちは平気じゃないんだよ!」と言いたくなってしまいます。
このようなしつこい相手は説得できません。時間が無駄ですし、話をしている間にもワンちゃんの警戒心は強くなっていきます。警戒心が強くなって喧嘩に発展することは避けたいので、さっさと逃げましょう。 要するに「無視」です。
相手は嫌な顔をするかもしれませんが、大切なワンちゃんが嫌な経験をしてしまうよりは遙かにマシでしょう。
どうしても犬に挨拶させたい場合は、必ず相手の飼い主さんに許可を取る
先に述べたように、犬同士の挨拶は絶対にやってはいけない訳ではありません。犬同士の相性が良く、お互い怖がっていないのであれば、挨拶させても構いませんが、必ず相手の飼い主さんに許可を取りましょう。
無断で自分のワンちゃんを近づけるのはNGです。一見怖がっていなさそうでも、素人の判断はとても危険。他の犬を怖がる性格ではないか、挨拶をさせても大丈夫なのか飼い主さんに聞いて、OKをもらってから挨拶させてください。相手のワンちゃんのことは飼い主さんが一番よく知っています。
犬同士を挨拶させる場合は、よく知っている相手でも必ず許可を取る
近所にお住まいで、何度も一緒に遊んだ相手は「以前にもあいさつさせているから大丈夫」と思ってしまいがち。しかし犬にも気分の変化はありますし、1度の経験で他の犬が苦手になってしまうことも珍しくありません。「以前大丈夫だったから今も大丈夫」という考え方はナンセンスです。
特に排泄物の処理中など、「何かあったときに飼い主さんが対応できない状態」で自分のワンちゃんを近づけるのは危険行為。自分のワンちゃんを近づける前に、相手も自分も「何かあったときにはすぐ対応できる状態」であることを確認しましょう。
犬同士の挨拶のさせ方・挨拶させる際の注意点
仮に相手の飼い主さんから挨拶の許可が出たとしても、注意すべきことはまだあります。挨拶中も常に気をつけていないと、せっかくの挨拶が喧嘩になってしまうことがあります。町中で、散歩中に挨拶している犬が喧嘩を始めるのを見かけますが、確実にこれからあげる4つのいずれかが出来ていません。
嫌がる犬に挨拶を強制しない
これが一番重要です。他の犬に苦手意識をもっている犬や、挨拶を嫌がる犬に挨拶を強制すると、確実に犬嫌いが悪化します。
極端なほど他の犬が苦手なのであれば、必要なのは挨拶ではなく「馴致トレーニング」です。挨拶など、できなくても問題ありません。
両方の犬をしっかり観察・ボディランゲージを読む
挨拶させるときは、自分の犬だけではなく、相手の犬のボディランゲージもしっかり読み取りましょう。相手の犬が「やめて!」「来ないで!」というサインを出しているにもかかわらず、挨拶をさせてしまうと、大喧嘩になる確率が高いです。
「ボディランゲージなんて全く読めない」という方は、犬同士の挨拶は諦めましょう。そもそも犬同士の挨拶は、できなくても問題ないことを思い出してください。犬同士の挨拶で喧嘩をしたという経験を繰り返すと、確実に犬嫌いの子になります。本来であれば、仲良くなる切っ掛けであるはずの挨拶で犬嫌いになったら、本末転倒ではありませんか?
必ず1対1で挨拶させる
犬同士挨拶させるときは、必ず1対1です。3頭以上の挨拶はさけましょう。3頭以上の犬のボディランゲージを同時に読むのは至難の業です。また、挨拶相手が2頭以上いるとワンちゃんの反応が誰に対するものなのかも分かり難くなります。
挨拶に積極的な犬はリードを短め・消極的な犬はリード長め
挨拶に積極的な犬は、テンションが上がりすぎて相手を追い詰めてしまわないよう注意しましょう。相手の犬を追い詰めてしまうと、反撃されることがあります。挨拶が喧嘩に発展しないためにも、飼い主さんがリードを短く持ちワンちゃんの行動を制御してあげてください。
一方、あまり挨拶に乗り気でない犬は、リードを長めに持ちましょう。何かあったとき自由に逃げられる環境をつくってあげたほうが、警戒心が強まるのを防げます。逃げられない環境や逃げても無駄な環境下では、相手を攻撃して追い払うことで身を守ろうとするのが、生き物の行動特性です。ワンちゃんが、あまり挨拶したいと思っていない場合は、リードを長めに持つことである程度自由に逃げられる環境を作れます。追い詰められたワンちゃんが相手に反撃することがないよう、リードを長めに持つことを意識してみてください。
犬同士の挨拶を中断すべきケース
次に、挨拶を中断すべき場合について解説します。常に自分のワンちゃんと相手の犬の両方に注意を向け、ボディランゲージを読み取るようにしてください。
どちらかの犬が後ろに下がったとき
後ろに下がるのは、「来ないで!」というサインです。もし、相手の犬にこの行動が見られた場合は、自分のワンちゃんをそれ以上相手に近づけないよう、リードでしっかり制御しましょう。サインを見落とすのは論外です。
他の犬が来たとき
前述の通り、犬同士の挨拶は1対1が鉄則です。3頭目の犬が乱入してきた場合は、挨拶を中断し、いったん離れましょう。
どちらかの犬が過剰に興奮したとき
双方が犬好きという場合、挨拶でテンションが上がってくることがあります。このような場合、放置していると収拾が付かなくなるので、一度離れて落ち着かせましょう。興奮している犬の落ち着かせ方は後日別記事で解説します。
まとめ
如何でしたか。以上が挨拶させたくない場合の対処法と、挨拶をさせたいときの最低限のマナーです。人間と同じように、犬同士にも相性があります。嫌がっているワンちゃんに挨拶を強要しても、いいことは一つもありません。「どんな相手とも仲良くして欲しい」と考えるのは人間のエゴです。
他の犬に対して過剰に興奮したり、過剰に怖がることがなければ無理にトレーニングで矯正する必要はありません。それよりも人間との関係をしっかり作ってください。犬同士の挨拶は出来なくても問題はありません。
参考文献、参考URL
鹿野正顕『犬にウケる飼い方』ワニブックスPLUS新書,2021.